気まぐれに週末海外旅行の感覚で釜山に向けて二泊三日で行った時の事だ。釜山駅周辺がいかがわしい街になっているというので、夜うろうろしていたのだが、まず釜山駅近くにある「上海街」という中華街は、中華街なのに何故かロシア人が多くキリル文字があちらこちらに見られる奇妙な場所である。これも国際港である釜山ならではだが、そこで見かけるパツキンで長身のロシアンアガシ達は見るからにこれから夜のお仕事ですといった感じで、まあ何しに来る場所なのか非常に分かりやすいのだが、そんな一角にロシア語と韓国語を掲げるこれまた怪しい喫茶店が何軒かある。
そのうちの一軒にちょっと休憩がてら入店を試みた。店の前でたむろする金髪ロシア人と地元のアジュンマがあまり場所柄来る事も無さそうな日本人を見るやいなや一瞬怪訝そうな表情をする。それでも「イルボンOK?」と訊くと、快く店の中に入れてくれた。
店内は日本でいう所の昭和で場末なスナックのそれそのもの。色気も糞もない店内はボックス席が5つ程あり、韓国人のアジュンマが2名でまったり接客にあたっている。客層の多くはロシア人船員なのだろう。メニュー表は韓国語とロシア語だけ。まあコーヒーくらいは何語で書いてあろうと通じるだろうと、一杯3000ウォンのコーヒーをもらう。
頭上には埃をかぶったミラーボールに、小さなブラウン管テレビがあり、テレビにはロシア音楽のPVが延々と流されている。ここは釜山の中の小さなロシアなのであろうか、トイレも借りたのだが、どうやら隣の店と共用になっている裏庭のボロ小屋みたいな所に案内され、扉のドアも鍵がろくについていないので、ドアノブに括りつけられたロープを鍵代わりにずっと引いたまんま用を足さなければならない。
結局言葉もろくにわからなかったが、ここでどんな営みが普段から行われているかは想像に堅くない。帰り際に店の前にいたロシア人のアガシにねちっこい視線を送られたが、そのまま出て行った。